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新しいけど、懐かしい住まい

1. 温熱環境を建築で整える

温熱環境を建築で整える

「家の作りやうは、夏を旨とすべし。」とは兼好法師の言葉。エアコンなどがなかったころは、高温多湿な日本の夏をどのように乗り切るかが最優先課題でした。しかし、冬の寒さの厳しさも私たちは知っています。そこで最近は高気密・高断熱と呼ばれる家が増えてきました。「高気密・高断熱=冬暖かく、夏涼しい家」というイメージも広がっています。ただ、「エアコンを使えば」という前置きが隠されていることがほとんどです。

「夏の日差しが部屋に入らないようにして、風をまっすぐに通してあげる」「冬の日差しはたくさん部屋に取り込んであげる」

この2点をきちんと考え、実践するだけでもエアコンに頼らずに心地よく暮らすことができる時間は倍増します。
設備ではなく建築的な工夫で自然との対話を行う設計が必要だと思います。

2. 深い軒(のき)がある住まい

深い軒(のき)がある住まい

日本の木造建築が数百年もの間、その美しさと強さを保っているのは、深い軒によって雨風や日射にさらされるのを防いでいるからです。また、夏の強烈な日差しが室内に入るのを防ぐと同時に、軒下にできる影によって涼を生み出す役割も果たします。そして冬は太陽高度が低くなるため、お日様は軒の下をくぐって大きな窓から室内へと入り、天然の暖房となります。

しかし最近では軒や庇(ひさし)がほとんどなく、キューブのような家が増えてきました。そのような家は大きな窓を開けることが難しいので、エアコンだよりの生活になりがちです。そしていかに技術が発達したとはいえ、日本の強烈な日射や雨風にさらされれば、外壁は意外なほど早く劣化してしまいます。四季の心地よさと建物の長持ちのためにも、軒や庇は欠かすことができないと考えます。

3. 風合いを重ねる外観

風合いを重ねる外観

例えば、古いお寺の佇まいに美しさを感じることがあります。軒が深く出た瓦の屋根、漆喰(しっくい)の塗り壁、深く色づいた木の外壁や濡れ縁。私たちの祖先は自然の素材を適材適所に使って、建物の寿命と風合いを長持ちさせてきました。

「自然素材=傷みやすい」というイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、日射や風雨にさらし続けないように計画することで驚くほど長持ちするようになります。

また、自然素材に泥やホコリが付着しても、なんとなく馴染んでくれるから不思議です。

4. えんがわ

えんがわ

日本人は住まいの中と外を上手に、
そしてあいまいにつなげることの名人でした。その一つの手段が縁側(えんがわ)です。最近ではウッドデッキと呼ばれることも多くなりました。

腰かけて夕涼みをしたり、ご近所さんとおしゃべりしたり、昼寝をしたり。

えんがわにはさりげなく暮らしを豊かにする力があります。

5. 木肌が見えること

木肌が見えること

もともと日本家屋は木組みが見えていたり、柱をあらわす真壁(しんかべ)づくりであったことから、私たちは木肌に慣れ親しんできました。しかし、新建材(人工的な建材)が進歩するにつれ、木肌をほとんどあらわさない家も多くなっています。どちらがいいと断言することはできませんが、新建材よりも木肌に触れたときの方がホッとするものではないでしょうか。

「木視率」という言葉があります。これは視界に入る木肌の面積のことを指し、その違いが脳の働きに影響を与えるという研究があります。木視率が30%以上で落ち着く空間となり、45%以上で脳が活性化する空間になるそうです。

6. 風景と周辺に優しい屋根

風景と周辺に優しい屋根

昔から日本の屋根は寄棟(よせむね)や切妻(きりづま)のように、山なりの形をしたものが主流です。それは雨や雪を効率よく受け流すためだったり、室内にこもった熱をてっぺんから上手く逃がすためだったり、日本の気候風土に合わせて生まれた形です。深い軒は夏の日射を遮るとともに、建物が風雨にさらされるのを防いでくれます。そして、山なりの屋根は北側の庭先が陰になることを防ぎ、山に囲まれた風景にも自然となじむものです。

今、町なかを見渡せば、いろいろな形の屋根が並んでいます。建物の建材が高性能になり、屋根に機能よりもデザイン性を求める人が増えているからです。しかし、一軒一軒がまったく違う形状の屋根が並ぶ家並みを見ると、少し寂しい気持ちになります。また、太陽光発電の効率を高めるために片流れ(かたながれ)屋根にすることも流行っていますが、そのせいで北側に住む方の庭が陰になり、家庭農園が枯れてしまったという話をよく耳にします。

7. 体に負担の少ない素材選び

体に負担の少ない素材選び

昔は近くの山から木材を切り出し、近くの海から石灰岩を削り漆喰(しっくい)を仕立て、近くで採れた藁(わら)や草木を丁寧に編み込んで、住まいを建てていました。それがいつの間にか化学素材の内装材に取って代わられ、シックハウスという概念を生むに至りました。それでもなお、自然物をありのままに用いることの方が高コストになってしまうという、ある意味で矛盾した世の中になっています。

たとえば、大分の山で採れた木を使う。
たとえば、大分で採れた漆喰を使う。

そんな住まいに暮らすと、心も体も喜んでくれるような気がしませんか?

8. 外とのつながりを大切にする

外とのつながりを大切にする

少し肌寒いそよ風が頬を撫でる清々しさ。
照りつける太陽から逃れて飛び込んだ、えんがわ下の清涼感。

色づいた木々を眺めながら飲むコーヒーの味わい。

窓の外に降る雪を眺めながら、こたつの温もりにとろける幸福感。

自然や生き物以上に美しいものはないのではないでしょうか。豊かな四季の移ろいがごちそうになるような住まいを造りたいと考えます。そのために必要なのは、「閉じたいときにはしっかり閉じることができ、開けたいときにはしっかり開けることができる」ということをきちんと設計することです。

9. 町なみにあたたかさをおすそ分けする

町なみにあたたかさをおすそ分けする

窓からあたたかな色の明かりが漏れて夜の通りをほんのりと照らしているのを見ると、なんとも言えない安心感に包まれます。

火による照明が白熱電球に代わり、そして最近ではLEDが普及してきました。そのたびに利便性は上がりましたが、無機質な明かりが増えてきたように思います。

LEDを利用する場合であっても、暖色系の明かりをメインに使うと暮らしと町なみが温かく落ち着いた雰囲気に包まれます。